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教育基本法関連-3

★★特集ワイド:教育基本法改正案、審議大詰め
 
◇あとに控えるは憲法改正--同じ轍、踏むものか
 
教育基本法改正案の審議が参院で大詰めを迎えている。タウンミーティングでのやらせ質問
などは明らかになったが、最も大事な法案についての国会での論戦は結局、盛り上がらない
まま、週内にも成立しそうな状況だ。さらに重要な憲法改正の「つゆ払い」とも「布石」と
も言われる。こんなことでいいのだろうか。【本橋由紀】
 
◇討論は一秒たりともなかった--政治評論家・森田実さん
 
◇公立校への信頼ますます揺らぐだろう--広田照幸・日大教授
 
◇結局、戦争のできる国にしたいということ--赤松良子・元文相
 
参院教育基本法特別委員会をのぞいた。委員は35人いるはずだが、この日は空席が目につ
く。審議中に、ほかの委員が後部席でひそひそ話なんてことも。これでも、時がたてば「1
時間の審議」に数えられるのだろうか。
 
首相は11月22日の参院特別委で「新しい時代にふさわしい教育の理念、基本的な原則を
定める」「衆議院でも100時間を超える議論を重ねた」と発言した。しかし、衆院の特別
委は履修単位不足、いじめ、教育改革タウンミーティングの「3点セット」ばかりに議論が
集中し、肝心の法案が「新しい時代」にふさわしいか、などの議論が十分だったとは言えない。
 
政治評論家の森田実さんは「与党は自公で合意した案を通すことしか考えていない。討論と
は互いの意見を闘わせ、いいところを取り入れていくものだが、そういう討論は一秒たりと
もなかった」と断じた。その上で「それを止めようとする力も弱ってます。生き物には危険
察知能力が働くはずなのに、それが働いていない」と憂えた。
 
こんなことさえあった。先月末、逢沢一郎衆院議運委員長が同委員会理事会で議場内のマナ
ーを守るように注意した。
 
《ベルが鳴ったらすぐ着席し、新聞や本を読まないように》
 
まるで小学生。河野洋平議長が「新聞を読む人、携帯電話を使用する人が目に付く。ルール
を徹底してほしい」と、委員長にじきじきに指示したという。
 
「子どもが政治をやっているようなもの。自民党復党騒ぎでは、命よりも重かったはずの政
治家の信念が軽いことも露呈しました」と森田さんは憤った。
 
昨年の郵政解散の際、議会政治のあり方に疑問の声が上がったが、押し切った自民党は総選
挙で大勝した。あの時反対した議員を復党させたのは、来年の参院選のためとされる。参院
特別委で首相は「戦後60年の風潮の一つとして損得を価値の基準に置いているという問題
点」があると語った。こんな政治家たちだけに、子どもの未来を任せていいのだろうか。

      ■
 
改正案が衆院を通過したのは11月16日。日本大学文理学部の広田照幸教授(教育社会学)
はその前日、民主党推薦の公述人として特別委で「(1)教育問題の現状認識がずれている
(2)法改正で、現場で何が起きるか検討されていない(3)未来の可能性を狭める」と指
摘した。
 
「しゃべってみて思いましたよ。国会の文化ですかね。ほかの法案と比べて長い時間を費や
した、あとは早く片付けてしまえってね。見識を集めるという審議ではなかった。首相が第
一課題に位置づけたため、内容ある審議が困難になりましたね」
 
改正の焦点は第2条。現行の「教育の方針」は「教育の目標」と書かれた。その第5項に
「我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を
養う」が盛り込まれたため、「愛国心」の是非が注目されている。
 
だが、このほかに4回「態度を養う」という表現が出てくる。「真理を求める態度を養い」
など。これは疑義を呈することだけで「反抗的、批判的な態度」と評価される危うさをはら
んでいる。広田教授は「面従腹背が広がるでしょう。地方レベルでは、法よりもはねあがっ
た事例、例えば東京都のようなケースがもっと出てくるでしょう」と指摘する。東京都教委
は卒業式などで君が代斉唱の際に起立しなかった教員などをこれまでに300人以上、懲戒
処分にした。「第10条に家庭教育も新設され、親にも矢は飛んでくる。萎縮(いしゅく)し
公立校への信頼感はますます揺らぐでしょう」
 
話を聞いていて30年前の自分を思い出した。都内の公立中学で、私はがんじがらめの校則
に、息が詰まっていた。

      ■
 
元労働官僚として雇用機会均等法の制定にかかわり、文部大臣の経験もある国際女性の地位
協会会長の赤松良子さん(77)は一連の改正が教育基本法だけで終わらないことを危惧
(きぐ)する。
 
「教育基本法は戦前の反省に立っています。教育勅語には夫婦相和しなんていいことも書い
てありますが、究極は『一旦(いったん)緩急アレハ義勇公ニ奉シ』、これを復活したいん
でしょう。オブラートに包んでいるけれど、結局、政府は戦争のできる国にしたいというこ
と」と言う。
 
そう、教育基本法の後には「憲法改正」が控えている。「郵政」だけを争点にしたあの総選
挙。それを背景にして生まれた現政権は、次はもっと重大な憲法に踏み込もうとしている。
 
「私は今の憲法が好きです。敗戦後、新憲法ができたことは鮮烈に覚えています」。津田塾
1年(47年)の時に英語のスピーチコンテストの冒頭で演説した。「憲法の改正により、
私たち日本の女性は新しい権利を獲得しました」と。emancipation(解放)と
いう言葉を使った。「9条の平和と14条、24条の平等は両輪でその後の人生を豊かにし
てくれた。それを60年たったから古びた、押し付けだから変えるなんて、許せない」
 
赤松さんは憲法草案の制定にかかわった米人女性、ベアテ・シロタ・ゴードンを描いた映画
「ベアテの贈りもの」の制作委員会代表として数年前から奔走している。今では英独仏の3
カ国語に翻訳されているという。
 
「今の日本人はゆでガエルだそうですね。カエルを水につけて、だんだん温かくしていくと、
普通なら入れないくらいの湯でも平気なんですって。世の中がだんだん変になっているのに、
気がつかないゆでガエル。イラク戦争に対しても、日本は鈍感ね。まもなくアメリカも舵
(かじ)を切り直すでしょうに」
 
アメリカでは先の中間選挙で、ブッシュ政権、イラク政策への批判が高まった。「アメリカ
には振り子を戻す力がまだあるけれど、日本はどうでしょう? 今のところ、まだないね」

      ■
 
世界は動いている。広田教授はこんなふうに説明する。
 
「1920年は大正デモクラシー、40年は太平洋戦争前夜、60年は安保……。歴史を見
れば、20年で世の中はがらっと変わった。時流に乗った人は次の時代には消えてゆく。今
のこういう時代がしばらくは続くかもしれないけど、新しい芽をつぶさずに伸ばしていくこ
とはできるでしょう。それにはきちんと自分の足で歩くことですね」
 
教育基本法から削除されようとしている「自発的精神」を心に灯(とも)し続けられるか、
どうか。我々は憲法までをも安易に改正してしまうのか。今回の轍(てつ)を再び踏ませる
わけにはいかない。国会だけでなく、今、私たち一人ひとりの意識が問われている。





★★記者の目:なぜ今、愛国心=松本杏(鳥取支局)

◇「格差」はぐらかすためか--歴史に学び、法で縛るな
 
今年ほど「愛国心」がクローズアップされた年はなかった。特に、安倍内閣が最重要法案と
位置付け、今国会での成立が確実になった教育基本法の改正案に盛り込むことの是非を巡っ
て論議を呼んだ。しかし、なぜ今、愛国心なのか。この夏、若者を対象に実施した一つのア
ンケートを通じ、考えてみたい。
 
そもそも愛国心とは何だろう。法律で規定できることなのか。こうした疑問から、毎日新聞
鳥取支局は今夏、鳥取県内の大学生400人に意見を聞いた。一地方都市の、戦後教育を受
けてきた若い世代の考えとはいえ、実態があいまいな愛国心という概念を知る手掛かりにな
るとも考えた。
 
18~26歳の計331人(男175人、女156人)が答えてくれた。結果を端的に言え
ば▽愛国心は「必要」だが、教育基本法に盛り込むことに「反対」が多数派▽教育基本法に
規定することで、日本社会が「悪くなる」が「良くなる」を大幅に上回る▽9割が高校卒業
までに愛国心を教わった経験がない--の3点に集約できる。
 
具体的に紹介する。愛国心を感じたことが「ある」は77%、「ない」は22%。「どんな
時に感じたか」(6項目から二つまで選択)では「スポーツイベント」(71%)「学術・
文化などで評価・活躍した時」(30%)と続いた。北朝鮮によるミサイル発射直後の調査
だったが、「領土問題など国際摩擦が起きた時」(22%)は3位で、「日の丸を見たり君
が代を歌った時」(6%)は最下位だった。
 
63%が愛国心は「必要」と答えたが、彼らに教育基本法に盛り込むことの是非を問うと、
「反対」(51%)が「賛成」(14%)を圧倒した。規定されると、日本社会が「悪くな
る」(34%)との答えが「良くなる」(15%)を大幅に上回った。
 
こうした学生の反応について、戦時教育史に詳しい児童文学作家、山中恒さん(75)は
「既に『日の丸・君が代』の押しつけの実態を見ているからではないか」と分析した。国旗・
国歌法の成立時、政府は「内心にまで立ち入って強制しない」としたが、日の丸・君が代の
起立・斉唱が教育現場で強要されている現状を見て「愛国心でも同じことが繰り返されるの
では」と感じ取ったというわけだ。
 
愛国心と愛郷心が「異なる」と考える学生が、6割いたのも興味深かった。元防衛庁長官の
石破茂衆院議員は取材に「故郷に戦力がないのが決定的な違い」と語り、男子学生(20)
は「愛郷の延長には家族があり、愛国のそれには天皇がいる」と答えた。いずれも、言い得
て妙と感じた。
 
学生の考える愛国心を記述式で問うと、76%が回答した。肯定派は▽国の文化・歴史を誇
りに思う心▽国を守る心、を挙げ、否定派は▽(戦争や政治で)国に都合がいいもの▽対立
の原因、などと書き込んだ。答えはまさに千差万別で、この結果からも、個々でとらえ方の
異なる内心の問題を法律で規定することに、妥当性はないように思う。
 
愛国心教育のあり方が議論になったのは、自民党を中心に戦後教育を見直す動きがきっかけ
だった。「公共の精神が希薄になった」と嘆き、政府・与党は先の通常国会に「我が国と郷
土を愛する態度を養う」ことを「教育の目標」とする改正案を提出。しかし、「愛国心の強
制につながり、内心の自由を認めた憲法に抵触する」などの反対意見が出され、継続審議に
追い込まれた。
 
今国会では、政府の教育改革タウンミーティングでの「やらせ質問」や必修科目の履修漏れ、
いじめの「3点セット」問題が噴出し、愛国心問題は置き去りにされた感が否めない。
政府側は「十分に審議した」との姿勢だが、国会での議論を、採決前の単なる手続きとみて
いるように思える。こんな態度で、1947年の制定以来、初めてとなる改正を決められて
はたまらない。
 
なぜ今、愛国心か。給食費を払えない家庭の子どもや正社員になれず不安な夜を過ごす若者、
働いても豊かさを実感できない中高年、わずかな預金や年金を気にして病院に行けない高齢者……。
広がる「格差」から目をそらせるため、「国と郷土を愛する」というソフトな言い回しで国
民をまとめ上げようとしているのでは、と思いたくなる。
 
「愛国心」は六十数年前、戦争という国策に利用され、反対すれば「非国民」のレッテルが
張られた。国家権力は歴史から謙虚に学び、国民に「愛国心」を課すより愛される国を目指
してほしい。気持ち良く国歌が歌えるような国を。





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